2016年2月15日月曜日

テクニカラーの歴史と今もその輝きを失わない作品の秘密

テクニカラーとの出会い

私のテクニカラーとの出会いはトムとジェリーでした。夕方5時ぐらいになると放送されるトムとジェリー。オープニングにはいつもTechnicolorと表示されて、一体なんだろうと当時思っていました。テクニカラーのアニメは何か古臭いけど面白いなというイメージがありました。そしてつい最近テクニカラーの歴史を調べていたところ、映画フィルムの歴史の中で80年以上も前に突如オーパーツのごとく現れたテクニカラーのカラーフィルムの技術の話が面白かったので今回纏めてみました。

テクニカラーの技術とウォルトディズニー


テクニカラーは当初2色法と呼ばれる赤・緑のみで記録する方式でしたが、その後テクニカラーのProcess4という3色法の技術で、世界で初めて天然色(Natural color)を実現しました。長期保存性に優れる白黒フィルムを使って、カラーフィルターを通し3本のフィルムに記録します。しかしながらとても複雑で高価な技術でした。当時はちょうど1930年頃に起きた世界恐慌でとても景気が悪く、どの映画スタジオも採用を渋っていました。そこで当時は小さいながら急成長していたウォルト・ディズニーにこの技術を提供しました。

世界で初めての天然色を再現したディズニーの映画はSilly SymphonyシリーズのFlowers and Trees(花と木)でした。



このショートフィルムは大ヒットし、それに続くThree little pigs(3匹の子ぶた)も大ヒットしました。



ディズニーの成功を見た大手映画スタジオもディズニーの独占契約期間が終了した1935年以降に続々とこの技術を採用していきました。

1939年8月にはThe Wizard of Oz(オズの魔法使い)がリリースされました。この映画は上映時アメリカ内では成功しましたが、このたった一週間後に第二次世界大戦が始まったことで海外で上映する事ができず興行収入的には大した成果をあげられませんでした。しかしその後テレビで毎年のように再放送されるようになり、アメリカの文化の一部とも言えるほどポピュラーになりました。次の動画を見てもそのクオリティは77年も前の映画とはとても思えません。



そして同じ年の12月にはGone with the wind(風と共に去りぬ)が公開され大ヒットしました。Gone with the windはフィルムの粒状感が少なく、必要な光の量も半分で済む革新的な進化を遂げたフィルムを使用しました。




どうしてテクニカラーはお金が掛かるのか


3本のフィルムに別々に色を記録するために機械的にとても複雑になってしまい、そのため高い技術が必要です。当時のテクニカラーのカメラは一台で$30,000(現在の価値で4500万円ぐらい)しました。また照明にはアークライトという非常に消費電力が大きいライトを使う必要があり、当時の映画スタジオではあまりに電力使用量が大きいためにその地域が停電を起こしてしまうこともありました。また映画の役者さんは蒸し風呂のように熱い中で撮影を行わなければなりませんでした。特にオズの魔法使いでは着ぐるみを着て演技しなければならず大変苦労したそうです。この点でディズニーは大きなスタジオも用意する必要が無く、照明も限定的使用なのでテクニカラーとの相性も良かったのでしょう。

当時大成功したテクニカラーは絶大な権限をもっており、クオリティーコントロールのためにテクニカラーのカメラマン、テクニカラーのメイクアップを使い、テクニカラーのコンサルタントによって必ずアートディレクションはテクニカラーのカラーパレットを使用し、フィルムの処理とプリントをテクニカラーで行わなければなりませんでした。昔の映画を見るとなんとなくテクニカラーっぽいと思うことがありますが、全てに渡ってテクニカラーによってコントロールされていたからという事情もあるからと言えます。

テクニカラーの衰退


ではこれほど繁栄を極めたテクニカラーがどうして衰退したのでしょうか?
それはテクニカラーよりも安くて扱いやすいイーストマンカラー(Eastmancolor)が登場したからです。 イーストマンカラーはドイツのアグファカラー(Agfacolor)のプロセスを元にして作られました。アグファカラーはドイツのプロパガンダに利用されたこともあり、第二次世界大戦後にその特許が開放されました。これを元にソ連はSovcolor、日本はフジカラー(Fujicolor)が作られました。イーストマンカラーは安くて扱いやすく、どのスタジオもイーストマンカラーを採用しましたが、実は大きな弱点もありました。それは適切に保存しないと5年ほどでフィルムが褪色してしまうのです。

デジタルリマスターで復活したテクニカラーの作品


イーストマンカラーで撮影された映画は保存に向かないフィルムだった事もあり多くが失われてしまいました。しかし保存に向いたフィルムストックであるテクニカラーで撮影された映画は今も大切に保存されています。近年流行りのデジタルリマスターによりBlu-ray Discで多くのテクニカラーの作品が復活しています。一般にはあまり知られていないですがフィルムというのは実は記録解像度が高く、近年の面積の少ない半導体センサーでは解像度では負けてしまうほどです。そしてテクニカラーのスリーストリップと言われる3本のフィルムに同時に記録する方式はデジタルリマスターに非常に向いている事がわかりました。というのも3本のうち1本のフレームがシミや傷などで痛んでいても他の2本のフィルムから、元の情報を推測し復活させることが容易だからです。こうして高解像度でスキャンされたデーターは高い技術を持ったエンジニアによって補修されて、リマスターされました。




0 件のコメント:

コメントを投稿